2009年度 水資源・環境学会
研究大会のご案内
(2009.5.27更新)

研究大会テーマ : 「これからの農業水利を考える」


【大会日時】    2009年6月13日(土) 10:00〜17:30

【大会会場】    法政大学 市ヶ谷キャンパス富士見校舎 ボアソナードタワー25階B会議室
                〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1 


 
 農業水利問題研究会が、日本の農業水利に関する総合的な研究を進め(1956年度〜1959年度までの4年間)、その成果を公刊(農業水利問題研究会編『農業水利秩序の研究』御茶の水書房、1961年)してから、ほぼ半世紀が過ぎようとしています。農業水利問題研究会には、当時の代表的な水利研究者が参加していたため、この研究はその後の水利研究を方向づけ、かつ水利研究を活性化する要因ともなりました。この後、1960年代から1970年代にかけて隆盛をみせた水利研究は、1980年代に入るとかつての勢いを失い、水利研究の課題もまた変化するようになってきました。
 この間、日本の経済や社会が大きく変貌したのと併行して、日本の農業や農業水利もまたその姿を変えてきました。日本農業が産業構造のなかで占めるウエイトは、この半世紀の間に大きく低下しましたが、農業水利の変化については一般にあまり知られていません。
 農業のウエイトが高く、農業生産の面から水利問題に強い関心が寄せられていた時には農業用水の灌漑機能に焦点が当たっていましたが、農業のウエイトが低下するに伴い、農業用水は灌漑機能のみならず生活環境や自然環境を維持する多面的な機能を持っているという側面にも関心が向けられるようになりました。今日、国民の多数は直接農業生産と関わりをもっていないので、農業用水の灌漑機能よりもそれ以外の多面的な機能と関わりをもつ人が多いというのが現実でしょう。
 水に関する研究もこうした社会の変化を受けて、生産資源としての水だけでなく、環境資源としての水についても考察の対象に入れようとしてきています。そこで、2009年度大会ではこれまで日本における水利用の重要な部門であった農業水利をとりあげ、その歴史的な課題を振り返りながら、新しい課題にいかに取り組んでいくかという問題関心のもとで、農業水利の多角的な検討を試みることとなりました。

●研究大会プログラム●

9:30  受 付
9:55  開会挨拶

自由論題
(座長:若井郁次郎)

10:00〜10:30     混住地域における住民活動と水辺再生の可能性に関する研究
                           −滋賀県守山市梅田町を事例として−       ○池側友美(東京大学大学院)                 

10:30〜11:00     農業用水確保を目的とした森林の造成と展開
                          −青森県津軽地方の田山制度を対象として−    ○赤池慎吾(東京大学大学院)


(座長:高橋卓也)
11:00〜11:30     内モンゴルの乾燥・半乾燥地域における地下水問題
                                                       ○ハイルハン(滋賀県立大学大学院)

11:30〜12:00     カリフォルニア渇水銀行における政府の役割−水取引の副作用とその是正策−
                                                      ○遠藤崇浩(総合地球環境額研究所)

12:00〜12:30     ベトナム・ホーチミン市の都市開発と大気・廃棄物の環境問題
                                                            ○槇村久子(京都女子大学)

12:30〜13:30     昼休み

シンポジウム:「これからの農業水利を考える」

テーマ論題
(総合司会:渡邉紹裕・総合地球環境学研究所)

13:30〜14:00     農業用水利用の特性と今後の課題                          ○佐藤政良(筑波大学)

14:00〜14:30     農業水利権の法的性質
                 −水資源の管理と配分に関する基礎理論の考察−               ○宮崎 淳(創価大学)

14:30〜15:00     農業水利における現代的諸問題:経済と環境という軸のはざまで
                                                              ○杉浦未希子(東京大学)

15:00〜15:30     コメント:松岡勝美(岩手大学)
                    田島正廣(帝國建設コンサルタンツ)

15:30〜15:40     休憩

15:40〜17:10     総合討論

17:10〜17:30     総会

17:30          閉会挨拶


●研究大会発表要旨●

混住地域における住民活動と水辺再生の可能性に関する研究―滋賀県守山市梅田町を事例として―
池側友美(東京大学・院)

近年のまちづくりには,環境との調和に重点を置いた方針を持つものが多く見られる.水辺再生も近年のまちづくりのひとつであると言え,それは水辺の持つ地域資源としての価値を評価するアメニティの改善や環境負荷の軽減といった目的を達することにより,地域の活性化につながると考えられる.しかし,新住民と旧住民の混住地域においては,新住民の地域に対する関心が低く,まちづくりのなかに彼らの意見が反映されていないのが実態である.
 そんな中,JR守山駅前に位置し,新旧住民の混住化が著しい滋賀県守山市梅田町では,2007年度に全国都市再生モデル調査の対象地となり,「川普請」が実施された.これは,町内を流れる丹堂川を整備し,ホタルが飛び交う里中川を生み出すことを主な目的とするものである.そのために,住民が主体となって「川普請」を実行した.
 今回は,梅田町周辺地域の2町と梅田町を比較し,梅田町の住民活動が停滞してきた要因を明らかにすることを目的@,「川普請」において,住民が水辺づくりに関った経緯や意識,行動を分析して,住民が水辺再生に関わり,その活動を継続させる要因を解明していくことを目的Aとして調査を行った.これらを通じて,混住地域における水辺再生が活発なものへと転換していく可能性を検討し,その結果を報告する.



農業用水確保を目的とした森林の造成と展開−青森県津軽地方の田山制度を対象として−
赤池慎吾(東京大学・院)

 水田稲作農業を基本とするわが国の村落社会では、農業用水確保のための森林の造成あるいは伐採の禁止といった制度・慣習が近世において遍在していたことが知られる(遠藤:1934、日本治山治水協会:1992)。
 本報告では、弘前藩の田山制度をとりあげ、当該地域における農業生産の動向に着目しながら、近世における田山制度の成立過程を整理し、近代以降の継承・展開過程を分析した。
 田山の歴史的展開を整理した結果、以下の3点が明らかとなった。
1)元禄年間には管理村数17か村19箇所であった田山が、安政6年には82か村148箇所に増加し、地域的には弘前城下中心から津軽地方全域に拡大した
2)明治30年森林法制定に伴い、一旦は総ての田山が保安林に指定されたが、その後大正7年までに約半数の田山が保安林解除を受けている。このことは、近世における水源涵養林が、かならずしも近代保安林制度に継承されたわけではない事を意味する。
3)旧藩時代においては伐木停止の厳しい規制がかけられていたが、近代保安林制度下では恒常的択伐が可能となり、このことが一部で田山の荒廃を誘起することとなった。



内モンゴルの乾燥・半乾燥地域における地下水問題
ハイルハン(滋賀県立大学・院)

 エコシステムの脆弱な地域の一つである乾燥・半乾燥地域における人口圧力がその環境悪化に拍車をかけている。内モンゴルの乾燥・半乾燥地域であるホルチン左翼中旗では、政策的にすすめられた漢民族の移動により生活様式が大きく変化し、また砂漠化が一層進行した。
 そのような中で、急激な経済発展を続ける中国の木材需要と食糧需要を賄うために、食糧増産政策と退耕還林政策が実施されてきた。その結果、降水量が少なく、河川水の利用ができない乾燥・半乾燥地域では、農業生産と植林の両面から地下水への依存が強まり、地下水位が年々低下する傾向にある。
 本稿は、乾燥・半乾燥地域の代表例である内モンゴル自治区を対象として、地下水の低下と退耕還林政策、食糧増産政策との関係を考察し、課題点を抽出する。



カリフォルニア渇水銀行における政府の役割−水取引の副作用とその是正策−
遠藤崇浩(総合地球環境学研究所)

 本報告は「カリフォルニア渇水銀行(California Drought WaterBank)」に関するものである。渇水銀行は市場メカニズムを活用した水利転用政策であり、渇水時に生じる水の配分問題を解決する手法の一つである。それは1991年当時、記録的な渇水の最中にあった米国カリフォルニア州にて発動されて以来、同州の渇水対応策として定着している。この制度に関しては数多くの研究がなされてきたが、そのほとんどは初年度(1991年度)のプログラムに集中している。
 これに対して本報告のねらいは、1991年度と1992年度のプログラムを比較し、両者における政府の役割の違いを明らかにすることにある。この考察を通じて、双方のプログラムには密接な関係があり、92年度のプログラムは91年度のそれが生んだ問題点を修正したものであることを明らかにする。換言すれば、この研究は水の配分に市場メカニズムを適用することの利点と副作用を考えるケーススタディといえる。



ベトナム・ホーチミン市の都市開発と大気・水質・廃棄物の環境問題
槇村久子(京都女子大学)

 ベトナム・ホーチミン市はベトナム南部の主要経済地域で、ベトナムで最も人口密度が高い。さらに近年人口は急増し665万人の大都市であり、多くの工業団地が形成されている。都市開発は新都市区域を建設するため、同市は周辺の湿地へ向け発展している。高速道路や地下鉄等に建設も予定されている。工業開発と投資促進のため、現在産業再配置に重点を置いている。しかし、人口急増によるインフラ整備は追いつかず、特に大気汚染、水質汚濁の都市環境問題は深刻である。ホーチミン市では主な大気汚染源は工業と交通機関である。居住地域の大気汚染は主にPM10により影響されるが、最近年間平均濃度は低下しているが、以前ベトナム基準を超えている。水質汚濁はサイゴン川-Dong Nai川は家庭用水給水源であるが、溶存酸素濃度、COD、BOD、油脂濃度は基準を満たしているが、特に大腸菌は年々急増し基準の10000倍である。また運河は有機物でさらに悪化している。



農業用水利用の特性と今後の課題
佐藤政良(筑波大学)

 水田灌漑を中心とする農業用は、夏期において全水資源取水量の80%を超える最大の部門であり、今後の我が国における水資源利用、水環境の形成に大きな影響を持つ。本報告では、水循環と水管理という視点から農業用水の特性を整理し、水田のための取水と水資源の消費を峻別して見ることの必要性を示すとともに、これまでの農業用水整備、用排水の分離がどのような意味、意義をもったかを述べる。また現在の農業用水が抱えている問題と将来への影響を、水田面積の減少、経営規模の拡大による担い手の減少、土地改良区の運営、農村の都市化、水田の多面的機能といった視点から述べ、世界の食糧供給の見通しの中で、我が国では、食料自給率の維持、国土管理のために積極的に水田を保全、利用し、水田として水稲生産能力を維持していく必要があることについて論じる。



農業水利権の法的性質−水資源の管理と配分に関する基礎理論の考察−
宮ア 淳(創価大学)

 日本の水資源の利用は、歴史的に農業水利を中心に発達してきた。地域慣行に依拠した慣行水利権に基づく農業水利に対しては、従前より合理化が要請されてきた。とくに、積極的な水資源開発が見直されている現今においては、限られた水資源をいかに有効に利用するかという問題がより一層、顕在化してきている。水の有効利用について考察することは、水資源をいかに適正に配分するかという課題への挑戦でもある。このことを法的側面から捉えると、水利権の譲渡を容認するのか否か、するとした場合いかなる条件のもとで譲渡を認めるかという問題に収斂されよう。また、水資源の管理という視座からは、水の統合的・一元的管理を進めるのか、規制緩和による市場原理の導入で水利権の流動化を図るのか、という問題として表れてくる。
 本報告は、限りある水資源をいかに保全・利用するのかという問題意識に基づき、水資源の管理および配分のあり方を考えるための基礎的な法理論を考察する素材として、農業水利権の法的性質を取り上げる。はじめに、慣行水利権の判例分析を通じて水利権の本質的属性を考究する。そして、河川の流水の性質を考察したうえで、その視点から水利権の地役権構成を検討し、その法的性質について究明する。



農業水利における現代的諸問題:経済と環境という軸のはざまで
杉浦未希子(東京大学)

 「農業水利」とは、田畑に水を運ぶかんがいの用排水機能および態様のことであり、農業土木の一分野である。同時に、水を利用する「ひと」を前提とする意味で、自然科学分野のなかでも人文社会科学としての視点が重要となる稀有な分野ともいいうる。本発表では、農業水利が学際的でかつ現代に通じる様々な論点を示唆する分野であることを、3つの構成から論じる。第一に、研究分野としての農業水利の系譜(明治以降)を、オーラルヒストリーや文献調査より述べる。第二に、そのような学際的な研究分野に人文社会科学からアプローチする場合、具体的にどのような方法があるのか、2つの例を引きながら論じる。ここでは、かんがい用水に対するプライシングの議論と農業水利施設を利用した水利用への環境用水水利権を扱う。最後に、これらの議論を踏まえた上で、今後の農業水利を論じる上ありうる2つの方向性を示す。

 


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