米作りが終わり、秋が深まっていく頃になると、加古川市西神吉町富木地区では、今もなお、昔ながらに溜池の水を抜いている。
東播磨は溜池が多い。そもそも瀬戸内気候で雨が少ない上に平野の平たいところのほとんどが田んぼになっていて、たくさんの水を張る必要があるのだろう。このあたりでは、溜池の水抜きのことをじゃことりと呼ぶ。すっかり水が抜けて干上がり、露わになった池底は、野球場が二つは入りそうなくらいに広い。そこでは、大きな鯉や鮒が、時折大きな音を立てて、浅い泥水の中を這うように泳いでいる。そして、幾羽もの鷺が立ち、微動だにせず泥水を見つめていたりする(写真1)。
写真1 干上がった富木地区の幡水池、鷺が見える(2016年11月中旬撮影)
ゼミ1期生のN君が、卒業論文でこの行事に取り組む人たちについて研究して以来、毎年2回生ゼミ生を引き連れてじゃことりに訪れている。兵庫県はこのじゃことりを「かいぼり」と呼んで、実施を後押ししている。学生が参加するというと、土地改良事務所が胴長を貸し出してくれる。休日にも拘わらず職員さんも何名か訪れて、池端に「いなみ野ため池ミュージアム」の幟を立てたりして、行事を盛り上げる。
地元の農業水利のベテランから注意事項の説明を受けると、学生たちは、ジャコトリの網を手に、恐る恐る岸辺のコンクリートパネルの段を伝いながら水辺へと降り、池底の泥水の中へと足を踏み入れていく(写真2)。鷺たちが慌てて飛び立っていく。
写真2 網を手に底泥の中を歩く学生たち(2016年11月中旬撮影)
毎年訪れる富木地区の溜池はよく手入れがされていて、池底の泥はたいてい浅いが、所々深くなっていて、決まって動けなくなる学生が喚いて助けを求める。本人は必死の形相だが、こちらは毎年のことなので笑ってしまい、叱られる。
堤の上では、地区のベテラン達が調理してくれた小魚や海老、外来種の亀の揚げ物を、学生たちがびっくりしながら口にし、池の生き物と地区の人々との距離の近さを感じ取っているはずである(写真3)。泥の中を歩くことに慣れてくると、網で魚を捕ることに夢中になり、次第に池の中を跳ね回るようになったりして、大騒ぎである。そんな頃にはじゃことりは終わりとなる。
写真3 ただいま唐揚げ中(2016年11月中旬撮影)
お借りした胴長を一通り洗い、池端に干し終わるとお昼時である。堤の上に座り、婦人会のみなさんが地元産のお米でつくって下さったおにぎりと豚汁をご馳走になる。うまい。
人がいなくなった溜池に静けさが戻る。いつの間にか戻ってきていた鷺が、所々に残った水溜まりの際で、再び泥水を見つめている。
矢嶋 巌(広報委員会)
<ご参考用>
兵庫県いなみ野ため池ミュージアム
http://www.inamino-tameike-museum.com/