成安造形大学客員教授 仁連孝昭
 アル・ゴアの「不都合な真実」(2006年)は人類による化石燃料の燃焼により進行している気候変動という不都合な真実を映画にして一般に見えるようにした。それから10年以上経過しているが、私たちは都合の良い事柄は受け入れるが、都合の悪い事柄は受け入れたくないという心情がまだまだ残っているように思える。
 気候変動とは異なるが、日本は人口減少期に入っている。人口減少期に求められるのはそれに適応する体制を国や地方でいかに整えていくのかについて正面から取り組まなければならないのであるが、国や地方から出される政策や計画は人口減少を食い止めるための方策が中心となっている。人口減少という不都合な真実を受け止めるのではなく、それを回避することに重点が置かれているのである。気候変動への対策は緩和策と適応策の両方があるが、人口減少に対して適応策がおろそかにされている。それは不都合な真実から目を背けたいという心情から発しているように思える。
 私たちは人口成長期、経済成長期に膨大なインフラを建設してきた。水に関わるインフラは上下水道などのネットワーク型インフラであり、広域に網の目のように張り巡らされている。それらが老朽化するとともにその更新が必要となるが、人口減少期は水サービスの受け手が減少し、水サービスを支える収入が減少する時代である。この不都合な真実に目をやれば、水インフラを更新するのかどうか、更新するとすればどのようにするかについて議論を始めるべきではないだろうか。ポリシー・メーカーと計画家そして市民が不都合な真実を直視するのが第一歩であろう。
資料:国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』
平成30年3月31日
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