立命館大学 吉岡 泰亮
2021年最初の投稿となります今回は、福井県福井市を流れる「一乗谷川」の整備事業をご紹介します。
福井県福井市のJR福井駅から東南へ約10キロメートル離れた一乗谷(いちじょうだに)には、国の特別史跡「一乗谷朝倉氏遺跡」があります。戦国大名の朝倉氏が本拠を構えていたこの地ですが、織田信長との戦い(1573年)に敗れて朝倉氏が滅んだのち、福井を治めた柴田家は一乗谷ではなく現在の福井市中心部に本拠を構えたため、一乗谷は田畑の下に埋もれたまま、400年近くの時を経ていました。
1967年に発掘調査が始まると、大規模な開発がなかったこともあり、当時の遺構が数多く見つかりました。1971年に一帯の278ヘクタールが国の特別史跡となり、1991年には4つの庭園跡が国の特別名勝に指定されたほか、2007年に遺跡からの出土品の一部が重要文化財に指定されたことにより、国内でもまれな「三重指定」の1つとなっています。また1995年には町人が暮らす「町家」の一部が復元整備されるなど、一帯は史跡公園としての整備が進められています。
写真1:調査研究に基づいて復原された戦国時代の町並
1981年には一乗谷の入口に「福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館」が開館しており、2022年の秋には新館がオープンする予定です。遺跡を訪問する際は、まず資料館で知識を得てから向かうと、より満足度も高まると思います。
その一乗谷には、足羽川(あすわがわ)の支流である一乗谷川が流れています。一乗谷川の防災機能を向上させる観点から進められた河川整備事業においては、特別史跡の区域内ということもあり、文化財関係者が求める「文化財の保全」、地元民が求める「昔のような蛍が舞う里川の再生」というニーズを満たすため、1995年~1999年にかけて整備が進められました。
2004年7月、福井市を中心に甚大な被害をもたらした「福井豪雨」でも、一乗谷川の整備対象区域では大きな被害を免れており、2015年には土木学会が実施する「土木学会デザイン賞」の最優秀賞を受賞しています。
【参考】土木学会ウェブサイト内 土木学会デザイン賞「過去の受賞作品(2015)」
全体のポイントとしては、「河川整備工事をしたようには見えない川」というものがあります。遺跡の発掘調査によって、一乗谷川が領主である朝倉氏の居館の外濠として活用されていた可能性を示唆する石垣が出土したこともあり、堤防の法線を遺跡側に後退させ、出土した石垣を一乗谷川の護岸として活用しています。加えて史跡の公有地の一部を河川敷として活用することで、構造物を作らずに現行基準に準じたゆるい傾斜の法面を確保し、植生の回復にも留意しています。
写真2:朝倉館前(遺跡中心部)の一乗谷川(上流から下流方向を望む)
とはいえ、急流である一乗谷川の防災機能向上という観点にも配慮がなされており、落差工も整備されていますが、そちらも石張りで魚の遡上にも配慮した形状のものにするなどの工夫がされています。
写真3:写真2の場所から反対側(下流から上流方向)を望む。落差工や、自然植生の傾斜が緩やかな護岸がわかる。
整備事業の終了から20年以上が経過し、石積の護岸の隙間からは植物が生い茂り、遺跡の景観にもマッチしています。先に述べた福井豪雨の際に堤防が決壊し、復旧・強化がなされた福井市中心部の足羽川の無味乾燥な堤防とは天地の差があります。
(もっとも、立地や求められる防災機能の差があることは承知していますが)
現在は新型コロナウイルスの影響で外出もままならない状況でありますが、落ち着いた際にはぜひ足を運んでいただけると幸いです。
【一乗谷へのアクセス】
公共交通機関の場合:(いずれも本数が少なめですので、利用の際は事前に時刻を確認されることをお勧めします)
①JR福井駅西口より京福バス「一乗谷東郷線」、または東口より「一乗谷朝倉特急バス」利用(約20分で「朝倉資料館前」、約25分で遺跡中心部の「復元町並」停留所です)
②JR福井駅よりJR九頭竜線で「一乗谷」駅下車(資料館まで徒歩4分、遺跡中心部まで徒歩約30分)
マイカーの場合:
北陸自動車道「福井IC」より遺跡中心部まで車で約15分