仁連孝昭(成安造形大学客員教授・滋賀県立大学名誉教授)
 水は生命にとって欠かすことのできないもののひとつですが、水は溜めて利用するものではなく、流れの中で利用するものであると私は考えています。
そのような訳で、私は自然の水循環に依存して生活に必要な水を確保する、流れから水をいただき、流れに水を返すことをしようとしています。琵琶湖周辺に位置する中山間地で古民家を見つけ、そこに住むことにしました。そこは琵琶湖に流れ込むA川の山間部に入ったところで、標高は180メートルほどのところです。琵琶湖の水面が標高80メートルなので、100メートルほど上がったところです。それほどの山間地ではありませんが、近くに生活利便施設はありません。上流から西に向かってA川が流れ、その右岸側、すなわち南に面した斜面に私の住んでいる古民家が位置しています。北に山を背負っている感じです。この裏山の名前は分かりませんが標高300メートルほどで、それほど高い山ではありません。裏山の向こうは別の河川の谷になっています。おそらく、裏山の分水嶺から家まで700メートルそこらです。家の近くにある谷にほとんど水が流れていることはありません。もちろん大雨が降ると水が流れますが。そして、この裏山の地表は杉、ヒノキの人工林であり、また部分的にかつての薪炭林の趣を残した雑木林です。
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居住地周辺地図(国土地理院 25,000 分の 1 地形図)
右(東) から左 (西) へA 川が流れる
 この山に降った雨水(降雪)の多くは地下水となって流れ下ると想像しています。降水量を測り、谷の流量を測っていないので、生活者としての実感ですが。そして流れ出た地下水は、いずれ、A川の流れになり、琵琶湖に注がれることになると思いますが、山間地では、表流水としての流れより地下水(伏流水)としての流れのほうが優勢だと思われます。科学的なデータに基づかない、感覚の話ですが。なお、この地域の地質は古琵琶湖層が支配的で、一部石灰岩層があります。というわけで、私はこの地下水の流れを生活用水として利用することに決めました。幸い、古民家には最初から井戸が掘られており、これを再利用することができたのはラッキーでした。井戸の水面までマイナス5メートルありますが、これまで水が枯れたことはありません。とりわけ6月の梅雨の季節になると、古民家の北側の斜面を削りコンクリートで擁壁を築いた部分から水が滴るときがあります。地下斜面を水が流れていることを実感します。
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 通常、飲料水に使う地下水は被圧地下水を汲み上げて使います。被圧地下水は地下深いところにあり、動物の排泄物等によって汚染されず、衛生的であるという理由からです。しかし、私が利用している地下水は浅井戸で汲み上げられる不圧地下水です。動物の排泄物による汚染の危険性があります。実際、水質検査をしたところわずかですが大腸菌群が見つかりました。これは飲料水の基準としては失格です。しかし、汲み上げた水をそのまま飲むことは生活の中でほとんどありません。お茶やコーヒーとしてしか直接水を飲むことはありません。たいていは煮沸して飲んでいます。大腸菌の存在は地下水をあきらめる理由にはならないのです。それよりも、地下水に有害な化学物質が含まれているかどうかが問題です。地下水が流れ出る集水域の山は、ほとんどが人工林と雑木林で、山林組合が管理している場所であり、また歩いてみた限りでは廃棄物は捨てられていません。今後も、開発される恐れもありません。水質検査の結果も化学物質は検出されませんでした。安全な水を容易に利用できたのです。
 家の北側、すなわち地下水の集水域の最下流部は畑になっています。私はそこで絶対に化学農薬を使うことはないでしょう。なぜなら、そんなことをすると自分の飲み水に毒を入れるようなことですから。私たちが最も身近な水を利用することになれば、身近な環境に目を配り、その利用の仕方に気をつけるようになると思います。自然の恵みに支えられていることを日々実感することができ、自然と共に生きる生活を楽しむことができます。日本は世界でも降水量の多い地域です。身近な水を利用できる、恵まれた地域です。この恵まれた環境を利用することで私たちはもっと豊かに、そしてもっと自然と寄り添いながら暮らしていけるのではないでしょうか。
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井戸と揚水ポンプ
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裏山を望む
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