遠藤 崇浩(立教大学環境学部)
2026年7月28日に熊本地震が発生しました。亡くなられた方に哀悼の意を示すと共に、被災された方にお見舞いを申し上げます。このたび、断水時の井戸活用について研究されている遠藤先生(立教大学)より、現地調査の結果を速報としてまとめて頂きました。
2026年8月17日
水資源・環境学会事務局広報室
2026年7月28日に熊本県で発生した地震(令和8年熊本地震)は、令和6年能登半島地震と同じように、大規模な断水被害をもたらしました。本原稿は地震発生後、2週間が経過した段階で書いていますが、今なお断水は解消に至っておりません。今回の地震後、被災地では気温が40度を越えるような日もあり、断水が生活再建に悪影響を及ぼしています。
断水被害の緩和策の一つに井戸の活用があります。それは地域にある井戸-たとえば家庭・工場・神社などにある井戸-を近隣に開放し、断水被害の軽減を図るしくみで、近頃では災害用井戸などと呼ばれます。
以前、本学会の「随想」にも寄稿しましたが(2024年10月3日:能登半島地震被災地での井戸利用調査)、災害後の地下水利用は住民同士の助け合いという性格が強く、自治体の関与が限定的であるため、公的記録に残りにくい性質を持っています。井戸水の提供が行われているところではしばしば手作りの看板や水受けのコンテナ等が出ていますが(写真1)、それらは断水が終わると間もなく撤去されます。そのため井戸利用の実態を把握するには断水継続時の調査が必要となります。

(熊本市南区。2026年8月6日、筆者撮影)
こうしたことから筆者は8月6日に熊本県熊本市と宇土市にて現地調査を行いました。熊本市は2016年熊本地震時の反省を生かし、2017年に災害用井戸(名称は災害時協力企業井戸)の登録制度を導入しました。写真2はその登録井戸の一つで、今回の地震後に近隣住民に開放されたものです。井戸を設置した営業所の所長によると、災害用井戸として登録手続きが完了したのが、今回の地震発生のわずか1週間前であったそうです。地震翌日から24時間井戸を開放しており、早朝に井戸の周りが濡れていたことから夜間の利用者がいたと考えているとのことでした。

(熊本市南区。2026年8月6日、筆者撮影)
令和8年熊本地震における災害時地下水利用の特徴として、井戸をめぐる情報共有手法の多様化が挙げられます。
一つは自治体を通した情報共有です。2016年の熊本地震の際は熊本市に災害用井戸制度は存在していませんでした。しかし今回の地震では同制度を通して災害時に利用可能な井戸の位置情報が熊本市に事前登録されていました。写真2の事業所によると震災翌日に熊本市から電話があり、井戸が利用可能か、市民に位置情報を公開してよいかどうか改めて問い合わせがあったそうです。熊本市は地震翌日の夕方にはホームページを通して利用可能な井戸の位置情報(62か所)を、用途(飲用可能か否か)、水を汲める時間帯情報と共に広報しています。
また民間主導による井戸情報の共有も行われています。たとえば「イマココナビ」は被災者が立ち上げた情報共有サイトで、被災地における「炊き出し」「物資配布」「給水所」「井戸水」などの場所を確認することができます。地震翌日からサービスが供与され1週間余りで延べ16万人が利用したとされます(熊本日日新聞2026年8月9日)。「井戸水」に関していえば、位置情報に加え、給水可能な時間帯、利用上の諸注意(容器持参が必要など)が記されています。しかも最終更新情報も記してあり、井戸が今なお利用可能かチェックできる機能もついています。
2024年の令和6年能登半島地震の被災地(石川県七尾市)でも井戸の位置情報が共有されていましたが、筆者の知る限り、それは井戸の持ち主が出す看板や地元商店街の掲示板(写真3)によるものだけでした。この意味で今回の熊本地震のようなデジタル技術を活用し、行政が把握していない多数の井戸の位置情報を共有するしくみは大変興味深いものがあります。

(石川県七尾市。2024年2月3日筆者撮影)
※写真にある個人宅名は加工してあります。
災害時の地下水利用の利点は「早い」「安い」「広い」と言われています(Gleeson et al. 2026)。井戸は被災地内部にあり持ち主が即決で提供を開始できます(早い)。また井戸は普段からトイレや洗浄に使われていることが多く新規掘削の費用がかかりません(安い)。そして井戸は地域に散在するので給水車と異なり広い地域をカバーできます(広い)。ただし今回の地震では井戸水の濁りが発生しており、国交省が被災地で井戸水対応チームを発足させたという報道もあります(朝日新聞2026年8月13日)。今後はこうした井戸の利点と課題の情報を整理しつつ、災害時の地下水利用の制度設計を考えていく必要があります。
参考文献
朝日新聞「井戸水対応チームを設置」2026年8月13日。
熊本日日新聞「「イマココナビ」に生活情報」2026年8月9日。
Tom Gleeson, Takahiro Endo, Makoto Taniguchi, Giuliano Di Baldassarre. 2026. Natural hazard susceptibilities and inequities reduced by short-term groundwater use. Nature Geoscience. 19(1): 12-18.