飯岡 宏之(SUW研究所代表)
1994年は『平六渇水』と言われた全国的に記録的な渇水の年であった。今年、2026年はこれに続く30年ぶりの全国的な渇水状況を呈している。平六渇水は夏期であったが、今回の渇水は秋からの降雨が少なかったためで、いわば春期渇水ともいえる。夏であれば、渇水対策は水利権の大半をしめる農業用水の削減によってしのげるが、春は代掻きから田植えという、もっとも水を必要とする時期で、用水の制限は容易ではないし、収量に影響を与える懸念がある。
国土交通省の『水資源・渇水ポータル』(表1)によると、4月6日付けで渇水協議会等の設置、農業用水や水道水の取水制限に入っているのは、北は茨城県の久慈川、南は佐賀県の嘉瀬川など全国の12水系におよび、なかでも、愛知県の豊川水系にある宇連ダム(貯水量28,420千㎥)は3月17日に貯水率がゼロとなって、底水まで汲み上げて使用することになったため、農業用水50%水準への供給制限、水道の減圧給水という対応をしている。さらに、農業用水を必要とする5月から9月までとされた期間をまえに、天竜川水系の佐久間ダム(205,444千㎥)からの緊急導水を決めるという非常事態となった。この措置は、4月初旬からの降雨によって様子見になっているが、水系全体で貯水率はいまだ30%、平年の半分であって取水制限の解除はされていない。図1には記載されていないが、滋賀県は「水位低下連絡調整会議」を、また、神奈川県では県(県営水道)、横浜市、川崎市などが担当局に渇水対策本部をおく事態になっている。

出典:国土交通省Webサイト「水資源・渇水ポータル」
全国の渇水状況はさまざまだが、愛知県、神奈川県などは水不足が一層、深刻になる可能性がある。新潟県と群馬県の境にある三国連山から発する利根川、北部に豪雪地帯がある琵琶湖などのように雪融け水が期待できないからである。利根川の支流にある9つのダム(矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダム、相俣ダム、薗原ダム、八ッ場ダム、下久保ダム、草木ダム、渡良瀬貯水池(有効容量 計551,630千㎥))の貯水率を国土交通省関東地方整備局Webサイト「首都圏の水資源状況について」(図1)からをみると、4月からの降雨とともに融雪によって急速に回復している。しかし、この日本有数の豪雪地帯の三国峠の山地でも気候変動による影響か、近年は降雪深の低下がみられる。

出典:国土交通省関東地方整備局Webサイト「首都圏の水資源状況について」
筆者の住む横浜市の水源は丹沢山塊である。この丹沢水系は、富士山の豊富な湧水を背景にして水涸れがほとんどない。神奈川県内の横浜市、川崎市、横須賀市、県営水道(相模原市から平塚市など相模川流域)の末端給水事業(一般的に言われる水道事業)、さらに用水供給事業(需要家に責任を負わない卸売り事業)の神奈川県内広域水道企業団(前記を運営する神奈川県、横浜市、川崎市、横須賀市の四者の出資による地方自治法の一部事務組合、以下、単に四者という)などは、丹沢水系、すなわち山梨県の山中湖から発する相模川、箱根山の外輪山からの酒匂川の表流水を取水し、921万人(普及率99.9%)におよぶ神奈川県民の給水や、京浜工業地帯の工業用水として生産をささえている。丹沢水系は、関東で唯一、利根川水系によらない単独水系であって、一部は多摩川をこえて東京都の南部にも給水している。
神奈川県は1994年の平六渇水で35%の給水制限と東京都への給水を全面的に削減している。1996年にも春および夏期に渇水があった。今回の渇水は30年ぶりとなる。神奈川県の水資源開発は、人口の増大による水道水と京浜工業地帯の工業用水、さらには、電力の確保を目的としていた。神奈川県は相模川上流の津久井郡に利水と治水を両立させる多目的ダムとして(「河水統制事業)という)相模ダム(相模湖、48,200千㎥)を1938年に着工し、1947年に完成した。その下流にほぼ継続して城山ダム(津久井湖、54,700千㎥)が1955年に建設された。さらに、1974年に県は酒匂川水系に三保ダム(丹沢湖、54,500千㎥)を建設して企業団による用水供給を開始した。両河川は二級河川であることもあって、水資源開発は四者によって進められた。神奈川最後の水瓶として相模川支流の中津川水系に構想されていたダムが、建設省による宮ヶ瀬ダム(宮ヶ瀬湖)として2001年に実現すると、この四者による体制は終了する。宮ヶ瀬ダムは貯水量が183,000千㎥という大ダムであるが流域面積は相模湖1,201㎢にたいして101㎢と狭いため、水がたまらない便益の悪いダムといえる。これを払拭するため既存の相模川水系と導水路で連絡する総合運用(図2)を行うことで、神奈川県の渇水対策の決め手とされたのである。

出典:神奈川県Webサイト「かながわの水がめ 総合運用のしくみ」
※原図に「沼本ダム」の表記を追記している。
2026年3月4日に相模川水系にある三つのダムで、もっとも貯水率が低下している津久井湖を訪れた。沼本ダムは河水統制事業(図3)によって相模ダム(常時満水位は標高167m)と同時に建設され、神奈川県、横浜市、川崎市の水道は沼本ダムから取水するように計画された(注記も参照のこと)。その後、城山ダム(同121m)の完成で沼本ダム(同124m)はほぼ水没して堤体を見ることはできない。渇水があると全容が現れるという珍しいダムである。城山ダムは戦後の急激な水需要に対応するため、四者による「総合開発事業」で建設された。城山ダムは水道および工業用水の取水口をもたず、相模湖と津久井湖は一体として運用されることなった。通常は津久井湖の水が沼本ダムに逆流するような形で取水される。相模ダムの水位がさがると、渇水は危機的な状況になるといえる。

出典:『相模川河水統制事業史』(神奈川県、1952年発行)
【注記】沼本ダムについて、河水統制事業史では、「津久井堰堤」と記されている。なお、城山ダムによる人造湖が城山湖でなく津久井湖と命名されたのは、津久井湖からの揚水発電による上部調整池が城山湖とよばれるからである。

出典:筆者撮影(2026年3月4日)
当日の津久井湖の貯水率は11%まで低下し、沼本ダム下流(写真1、写真2)にあるボート乗り場から湖底を道志川まで歩くことができた(ボート運航は長期休業中である)。湖底に草が繁茂し、放流水は川筋となって流れている。その水量は城山ダムの落差による発電と維持用水のみのようである。ダム直下の左岸には140年前に給水を開始した横浜水道創設時の三井取入口(揚水蒸気機関)のレンガ積み基礎と思われる遺構が見えた。

沼本ダムは通常、津久井湖の湖底に水没している。
出典:筆者撮影(2009年8月26日)
2026年4月28日現在で貯水率は21%まで回復した。相模ダム65%、宮ヶ瀬ダム35%で、相模川水系ダム貯水率の合計は39%である。4月初旬からの降雨は恵みの雨というほどにはなっていない。例年であれば、図4のように、夏期制限の時期を過ぎると貯水量は回復していることがわかるが、今年は、降水が少なく、そのまま下降傾向をつづけ、例年の半分となっていて、かつてない事態になっている。総合運用に問題があることがわかる。
総合運用を行う国土交通省は『宮ヶ瀬ダム定期報告書の概要』という報告書で「平成25年の夏の記録的な少雨時には、宮ヶ瀬ダムと相模ダム・城山ダム及び三保ダムが連携しながらダムに貯めておいた水を放流することで、水道取水などの必要水量の補給」をしたと評価している。「相模川本川ダム群(相模ダム・城山ダム)と宮ヶ瀬ダムとで水の総合運用を行うことにより、相模川における河川の水量の安定を図って」いるというのである。
2026年渇水の特徴を図4で改めてみてみると、それまでの渇水との違いがみられる。
これまでの渇水は、
①夏期制限容量期(洪水調節期 6月~10月中旬)におこっている。これは台風や空梅雨による。
②10月以降に回復しているのは相模川本流の相模湖・津久井湖および道志川から導水路を通じての宮ヶ瀬ダムへの送水が寄与している。
という特徴がみられた。
これに対し、2026年(図4では赤色の線)の渇水は、2025年(同青色の線)の夏期制限時期以降降水がなかったことにより今日までいたっていることである。すなわち夏期以降の渇水には総合運用は機能していないことになる。

出典:国土交通省関東地方整備局Webサイト「首都圏の水資源状況について」
国土交通省関東地方整備局・相模川水系広域ダム事務所Webサイトにある「広域水系の総合運用」ページでは、「導水路の役割」として下記のようなものが挙げられている(以下要約)。
①宮ヶ瀬ダムの集水面積は相模ダムや城山ダムより狭いものの、その貯水容量は183,000千㎥と、相模ダム(40,200千㎥)・城山ダム(47,365千㎥)に比べて水を多く確保できるが、貯水するのにかなりの時間を要する。
②相模ダム、城山ダムは集水面積が大きく貯留しやすい反面、容量が小さいため貯水池で有効に利用されず、海に流れ出る水量が多く生じる。
③宮ヶ瀬ダムでは、お互いの特性を生かし、水資源を有効活用するため2本の導水路を整備した。
④道志川の水を宮ヶ瀬ダムに導くことのできる道志導水路によって、本川ダムでは貯めきれない水を容量の大きい宮ヶ瀬ダムに貯めることができる。
ここに総合運用の盲点もある。そもそも宮ヶ瀬湖にながれこむ道志導水路の道志川は、城山ダムが完成して以降は津久井湖にながれこんでいる。したがって、独立した水系ではない宮ヶ瀬ダムへの津久井導水路は再び道志川へ送水され津久井湖に送水されるが、道志川からの導水量が少なければ、宮ヶ瀬湖の水位が下がってしまうため、その機能は発揮できない。そうすると、総合運用が活用できるのは津久井湖の満水時期であって、かつ、道志川の水量が豊富である時期となる。結果、夏期制限期すなわち洪水調節期の4か月となる(図5)。

2025年から2026年の水位は橙色と赤色の線。11月からの水位低下は特異である。
出典:国土交通省関東地方整備局相模川水系広域ダム管理事務所Webサイト
「宮ヶ瀬ダム上流域平均降水量と貯水量の状況」
宮ヶ瀬ダムの総合運用の道志導水路は相模湖上流にある本流(山梨県からは桂川と呼ばれる)からの導水ではない。津久井湖に流れ込む支流の道志川(相模湖。津久井湖の流域面積に含まれ、その流域面積は112.5㎢)にある道志ダム(発電)から宮ヶ瀬湖に、宮ヶ瀬湖から津久井導水路をつうじてその下流にある横浜市水道局青山取水事務所の鮑子取水口の直下に送るものである。この道志川は山間にある小河川で、夏期の水量は豊富だが、冬期には地面が凍結する地域で水量は著しく減少する。道志川水系は横浜市固有の水源だが、しばしば、水利権の2.0㎥/sを流量が下回ることがある。洪水調節期には導水路は洪水のため貯水が制限(利水と治水の多目的ダムの限界でもある)された津久井湖に代わって宮ヶ瀬ダムに水を蓄えるが、そもそも河川の自流が減少する時期である春期渇水には無力なのである(それでも、富士山を背景にした丹沢山塊は、湧水が多く河川の自流がなくなることはない)。宮ケ瀬ダム貯水状況のお知らせ(令和8年4月24日現在)によれば「現在水位は回復傾向にありますが、過去最低のレベルで推移している状況」となっている(図6)。

出典:国土交通省関東地方整備局相模川水系広域ダム管理事務所Webサイト
「宮ヶ瀬ダム貯水状況のお知らせ」
宮ヶ瀬ダムは相模川の河口に近い寒川にある取水施設(相模大堰)、浄水場、導水管などふくめて約1兆円の公共事業である。この導水路(道志導水路は口径3m、8km、津久井導水路は口径4m、5km)には、ダム本体の建設費3,997億円のうち約500億円をかけている。宮ヶ瀬ダムが供用を開始した2001年から神奈川県の水需要は停滞から減少に転じ、受水量(責任水量)の増大のため、四者の施設稼働率は50%程度に低下することになった。
「「渇水」とは、河川の管理を行うに当たり、降雨が少ないこと等により河川の流量が減少し、河川からの取水を平常どおり継続するとダムの貯水が枯渇すると想定される場合等に取水量を減ずる、いわゆる「取水制限」を行う等、利水者が平常時と同様の取水を行うことができない状態をいいます」と国土交通省ホームページ「渇水の発生」は述べている。つまり、渇水とは、あくまで利水需要との相対的なバランスで発生するものであり、利水需要の動向を無視しては、将来の渇水の危険性は評価できない。
神奈川県の場合は、高度経済成長期に策定し、宮ヶ瀬ダム建設の根拠となった水需要予測は大きくはずれ、21世紀から人口は増大しても一人あたりの使用量は減少し、さらに、全県的には人口減少の局面にある。平常時の取水量は減っているのだから、国がダムを建設する根拠につかう用語に利水安全度というものがある。国土交通省関東地方整備局ホームページ「首都圏の水事情」によれば、利水安全度とは「水供給の安定性の水準を示すもの。例えば利水安全度1/5とは確率的に5年に1回起こる渇水までは水を安定的に供給できる。それを超える状況では必要量が取水できない状況となる」とされる。なお、利根川の利水安全度は1/5とされる。利水安全度は全国の他の主要河川(例:木曽川水系、淀川水系)では1/10、すなわち10年に一度の渇水を想定しているとされており、利根川水系の1/5はそれに比べると低い安全度ということになるが、そもそも水需要の減少によって安全度は向上しているはずである。
相模川水系における春期の渇水は筆者が横浜市水道局に在職した50年間、経験したことはない。宮ヶ瀬ダムが完成する以前も以後も渇水は夏期の渇水である。しかし、気候変動は人間の予想をこえて、いつ、どこに豪雨をもたらすかわからないように、渇水の時期もまた予想がつかなくなっている。洪水も渇水もダムをつくれば何とかなるという思想は、おおよそ自然の条件を無視した、技術的にも、財政的にも、非現実的な話である。
末石冨太郎が「同じ方針を50年も100年も継続すると、結果のすべてが失敗に帰すことも想像に難くない。費用最小化をはかったうえでの「総括原価主義」と「独立採算制」はすでに薹(とう)が立っている」と喝破したのは、2002年である(注記も参照のこと)。それから20年余、高度経済成長は遠い昔になって、人口減少、高齢化など多くの課題をかかえている。水道の専門家としてマスコミに出てくる多くの学者は、更新時期にあるのだから水道料金の値上げは当然、税金投入はもってのほかという。
【注記】末石冨太郎のくだりは、水資源・環境学会『水資源・環境研究』15巻に掲載された論文「水関連技術からみた生活史の検討」にあるものである。なお、末石はこの後に「責任水量制は、新聞が折込み分を含む広告料を稼ぐため、販売店に余分の部数を引き取らせる「押し紙」制度と同じであって、食品の産地偽装と変わるところはほとんどない」と付記している。
神奈川県の丹沢水系は921万、利根川・荒川水系は東京都など一都四県で2754万、大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県に供給する琵琶湖・淀川水系は一府三県で1468万の人口をかかえている。総計で約5200万におよび、水道の普及率を考慮するとこれらの水系が日本の人口の半分を賄っている。このような都市への巨大都市への集中が、渇水の真の原因であるといえよう。渇水になっても、水道事業者はぎりぎりまで節水をよびかけない。独立採算で収入がへると財政に窮するからである。
豪雨、洪水などともに、水需要が減少しているなかで渇水がおきるということは、都市の持続可能性が問われているといえる。SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)は「安全な水とトイレを世界中に」ターゲットに「水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処する」とある。簡単に言えば希少な公共財である水資源の無駄づかいをなくし、水循環を自然の状態に近づけることである。環境に寄与しない水行政は時代遅れである。
人口の減少とともに、一人あたりの水使用量の減少、さらには産業構造の転換は、政府の政策の課題である。独立採算制の前提がくずれつつあることを、地方自治体と水道事業者の責任のように糊塗することは筋違いである。気候変動による気象の激甚化はダムによる減災と貯水機能を毀損しつつある。高度経済成長期に完成した水道という巨大装置は、経年劣化をしている。しかし、巨費を投じて新たな施設に取り替えることでは到底、解決できない。水道法にいう「自然的、社会的条件を考慮した」システムの形成、なによりも身近な水資源を見直して、適切な規模に再構築する必要がある。水道事業はふたたび憲法25条の生存権のもとで、市民によって市民の健康促進のために運営されなければならない。いまのように弥縫策を繰り返せば、その合成の誤謬の結果は致命的になるかもしれない。
【主な参考文献】
・水資源・渇水ポータル 国土交通省ホームページ
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/content/001993431.pdf
最終閲覧 2026年4月7日
・首都圏の水資源状況について 国土交通省ホームページ https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000111.html
最終閲覧 2026年4月29日
・かながわの水がめ 総合運用のしくみ 神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/vh6/cnt/f8018/sougouunyou.html
最終閲覧 2026年3月27日
・第24回関東地方ダム等管理フォローアップ委員会 国土交通省関東地方整備局https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000643299.pdf
最終閲覧 2026年3月27日
・河水統制事業史 神奈川県(1952年)
・渇水の発生 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_tk2_000015.html
最終閲覧 2026年4月8日
・国土交通省関東地方整備局相模川水系広域ダム管理事務所ホームページ
https://www.ktr.mlit.go.jp/sagami/index.htm
最終閲覧 2026年4月29日
・末石冨太郎「水関連技術からみた生活史の再検討 合成の誤謬』」、『水資源・環境研究』、VOL.15(2002)