花田眞理子(大阪産業大学)
水資源・環境学会というプロ集団のブログに、私ごときが書けることなどあるでしょうか。悩んだ末に、私自身がゼミ遠足で学生を連れていくルートをご紹介することに致しました。(令和4年9月10日現地確認:写真は同日著者撮影)
皆さまの方がよくご存じのことばかりと承知しておりますが、ご一緒にぶらり街歩きをお楽しみいただければ幸いでございます。
【集合場所】近鉄「桃山御陵前駅」改札口
京阪「伏見桃山駅」は改札がわかりにくいので、2つの路線で来る学生には近鉄の駅で集合してもらいます。ここで全体のルートを説明し、水と環境を軸にしたまちづくりの話をしてからスタートです。なお、駅前の坂が大手筋で、ずっと上がっていくと伏見桃山城公園と伏見桃山陵があります。後者について「どなたのお墓でしょうクイズ」をすると驚かれます。(明治天皇・昭憲皇太后のお墓は東京近郊と思っている学生が多いようです。)
【御香宮神社と御香水】
少し坂を上がると左手に御香宮神社が現れます。歴史ある山門と鳥居をくぐり、手水場で浄めてから本殿に向かいます。手水場は、コロナ対策でしょうか、人が近づくと、横に渡した竹に穿った穴から自動的に水が出る仕組みになっていました。もはやここで柄杓の作法を勉強してもらうことはできないようで残念です。
御香宮神社
御香水の手水場
数年前に塗りなおして色鮮やかになった本殿には、いつ行っても、小さなお子さん連れのご家族がお参りにいらしています。礼拝してから、左手の御香水の水汲み場へ。学生は空のボトルとコップを持参していますので、まずは試飲です。気に入れば水筒やペットボトルに汲むことにします。水占いは特に女子学生に人気です。乾くと字が消えるのが不思議ですね。本来の御香水の井戸や、絵馬堂を見学して次のスポットへ向かいます。
御香水の水汲み場
元の御香水の井戸
なお、御香宮向かいの、地元不動産会社が経営する駐輪場に、以前にはなかった6台分のシェアサイクルがあり、1台はレンタル中でした。さて、近くの京町通を入ったところの魚三楼の格子には鳥羽伏見の戦いの弾痕がありますので、歴史の香りを感じてもらいます。
レンタルバイクコーナー
魚三楼の格子に残る弾痕
【商店街】
大手筋の坂を下りると、ユニークな取組を集客につなげている大手筋商店街があります。
ここはアーケード設置の際に、当時としては画期的だったソーラーパネルを屋上に並べ、その電力を利用して通路横の大きなパイプから、冬は暖かい空気、夏は冷たい空気を送り出すことで、屋外でもエアコンのような快適さを実現しました。ただし現在ではソーラーパネルは撤去されたようです。もう一つ、他の商店街との違いは2階にもお店があること。また商店街の中に金融機関も多いのですが、土日には、その前に野菜などの対面販売が行われて、シャッターを下ろした寂しい風景にならぬよう努力しているそうです。こうした努力のおかげで、商店街には珍しく、行き交う人が絶えない賑わいを見せています。
アーケード入口
2階部分は別店舗運営
休日の対面式野菜販売
この商店街入り口にある「伏見銀座跡」の碑もぜひご覧ください。江戸時代初めに、徳川家康によって日本で初めて銀座(鋳造所)が置かれたのがこの付近で、いまだにその名を町名「銀座町」にとどめています。
なお、伏見区は明治期に、ほんの2年間ほど「伏見市」だったことがあり、その当時の住所標識が近くの古い建物に残っていたのですが、現在は建物ごと取り壊されて駐車場になってしまって残念でした。そういえば、商店街から少し入った場所は駐車場がかなり増えていると感じました。
伏見銀座の碑
「伏見市(右から)」表示の標識(撮影:2020年11月29日)
現在は当然「伏見区」表示
さて、周辺の商店街も含めて、さすがにアルコール関連の商品を扱うお店が多く、酒かす味のソフトクリームなどもありました。竜馬通りには昔の建物を改築して、クラフトビールの醸造所と作りたてのビールが飲めるレストランが併設されていました。大手筋商店街にある油長商店は老舗で、伏見を中心に各種日本酒を取り揃えており、飲み比べもできます。銀行のディスプレーには伏見の清酒ラインナップが飾ってありました。
クラフトビールのレストラン
ビールの醸造所(brewery)
伏見の清酒
また大手筋商店街を西に進んで左折すると、納屋町商店街に入りますが、このパサージュも面白いので見逃せません。入口と出口の足元には日本および世界の都市の方向と距離を示す模様があります。都市の選定基準は謎ですが、矢印の方向に思いを馳せるだけでも楽しいものです。食ロス削減に取り組んでいる老舗のパン屋さんもあります。オリジナルソングが流れ、キャラクター「なやまっち」がいたるところに跳梁跋扈する、歴史を誇る商店街です。
納屋町のパサージュ
世界版(手前がシンガポール)
日本版(手前が室戸岬)
【見学ポイント】
伏見と言えば、豊臣秀吉が整備した舟運で栄え、徳川御三家の始祖がすべて生まれたまちですが、明治以降も、地域経済衰退の危機に見舞われるたびに雄々しく羽ばたいてきた不死身のまちでもあります。特に近年、環境を軸にまちを整備して、酒造業と観光業の隆盛に結び付けてきた経緯は、まさに sustainableなまちづくりの一例でもあります。
というわけで、この界隈のまちづくりを中心になって進めてきた大倉酒造の月桂冠大倉記念館や、有名な寺田屋は外せない見学スポットです。大倉酒造中興の祖、大倉恒吉氏の、逆境をばねに家業を飛躍的に拡大し時代を先取りしていく話は感動的で、学生にも「何があってもくじけちゃいけない」と熱く語ります。なお記念館は最近整備されて、3杯の試飲もコイン式になり、10種の中から選ぶ方式になっていました。また最近の学生はあまり坂本龍馬に思い入れがないようで、寺田屋では一から説明をしなければならず、寂しい限りです。
大倉記念館
試飲コーナーのメニュー
寺田屋
続いて月桂冠大蔵記念館の近くの船着場から、十石舟に乗って伏見のまちを川から眺めてみましょう。どの季節でもそれぞれの眺めが楽しめますが、川沿いの紫陽花が美しい6月頃は特にお勧めです。琵琶湖疎水や高瀬川などとつながる壕川は、伏見城の外堀だったそうです。なお、以前は川からちらりと見ることができた寺田屋は、手前に建物が建ってしまって見ることができなくなり、残念でした。三栖の閘門(みすのこうもん)では、川の高さを調節しながら船を進めた往時をしのぶことができます。淀川の雄大な眺めをお楽しみください。
十石舟乗り場
酒蔵の眺め
三栖の閘門
【水の飲み比べ】
ではおすすめの名水をご紹介しましょう。先ほど御香水は試飲しましたので、次は「鳥せい」の横にある「白菊水」ですが、残念ながら現在はコロナ対策のため使用中止でした。ちなみにこのお店は大正時代の酒蔵を改装したレストランで、学生たちとの昼食にお勧めです。
次は黄桜カッパカントリーの「伏水」です。こちらも残念ながらコロナ対策のために使用中止でした。なおカッパカントリーでは、日本全国のカッパ伝承を集めた部屋や、懐かしのCMを見ることができるコーナーもあります。
白菊水(鳥せい)
伏水(黄桜カッパカントリー)
次に、十石舟乗り場の近くの長建寺の「閼伽水(あかみず)」をご紹介しましょう。この特徴的な形の山門は、通るだけでも福が来る(山門迎福)と書かれていました。やや野性味のある水という感想をもちました。
そして最後にご紹介するのが、月桂冠大倉記念館の中庭で試飲できる「さかみず」です。個人的にはこれが一番おいしいと思っておりますが、皆さんはいかがでしょうか。もし伏見界隈にいらっしゃることがありましたら、おいしいと感じた水をぜひマイボトルに汲んでお持ち帰りください。お茶もコーヒーも、まろやかでおいしくなる不思議な名水をご自宅でお楽しみいただけます。
弁財天長建寺の山門
閼伽水(長建寺)
さかみず(大倉記念館)
以上、久しぶりに現地踏査した「伏見ぶらり散策」レポートでしたが、いかがでしたでしょうか。
京都の水に詳しい学会員の皆様にはご存じのことばかりだったかと思いますがお許しくださいませ。私はおかげさまで、新たなお店や集客アイデアなどについての発見がございました。
なお、集合場所とは異なり、解散場所にお勧めはございませんが、長建寺からは京阪中書島駅が近く、また時間がある場合は大手筋商店街入り口近くに戻って、からくり時計「おやかまっさん」のパフォーマンスを楽しんだ後、伏見桃山陵に上って市内の眺めを堪能してから近鉄丹波橋駅に下りてきても良いと思います。
ちなみに今年11月20日(日)には3年ぶりの「伏見の清酒まつりin大手筋商店街」が開催されるそうです。これを機に、また伏見に足を運ばれてはいかがでしょうか。