はじめまして。熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター減災部門(以下、熊本大学減災部門)の藤見俊夫と申します。経済学や行動科学をベースに防災・減災研究を行っています。私は水資源・環境学会の会員ではありませんが、「令和2年7月豪雨」により熊本県人吉市で発生した河川氾濫被害について現地視察を行いましたので、被災地の状況をこのブログで紹介する機会をいただきました。

令和2年7月4日未明からの豪雨で球磨川が氾濫し、熊本県南部の人吉市から八代市にかけて幅広い範囲に水害被害をもたらしました。私の住んでいる熊本市内ではそれほどの雨ではありませんでしたので、この水害について当日朝のニュースで知ったとき、とても驚いたのを覚えています。その一方で、「とうとう球磨川が氾濫してしまったか」とも思いました。

球磨川は熊本県内最大の川であり、最上川や富士川と並ぶ日本三大急流の一つでもあります。人吉市内を貫く球磨川は川幅もかなり広く、川の水位が高くなったときには轟音とともに莫大な量の水がかなりの速度で流れます(写真1)。これまで球磨川は何度も水害を引き起こしてきました。特に、昭和40年7月洪水(球磨川大水害)では、人吉での最大流量が5,700 m3/sにも達し、流失・損壊1,281戸、床上浸水2,751戸、床下浸水10,074戸の被害が生じています。その後も、昭和46年8月、昭和47年7月、昭和57年7月と浸水家屋が5千戸を超える水害が発生しています。私は、人吉市内で球磨川の水位が堤防高さに近づいたときの様子を何度か見たことがあります。もしこの河川が氾濫したら大惨事になるだろうなと感じていましたが、それが不幸にも現実に起こってしまいました。

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写真1:流量が多いときの球磨川の様子(人吉市)

 球磨川が氾濫した翌日の7月5日、熊本大学減災部門のメンバーともに人吉市内を訪れ、被災状況の現地視察を行いました。そこで何より驚いたのは、今回の氾濫の浸水深さの高さです。下記の写真2は、青井阿蘇神社付近の電柱に残った水害の痕跡を計測している様子です。この電柱に記録されていた過去の水害の浸水深と比較すると、昭和40年の大水害でも浸水深が2.1 mであるのに対し、今回の令和2年の水害では4.3 mにも達していることがわかります。この写真から、今回の河川氾濫がどれほど大規模であったかが一目瞭然です。

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写真2:令和2年7月水害の浸水痕跡と過去の記録

 人吉市の町なかを歩いていますと、氾濫した水の力を感じさせる場面に多く出会いました。ビルや家屋が損壊したり、家屋が押し流されて道路を塞いだりしていました(写真3)。乗用車やバスも、いたるところで横転したり、ブロック塀に持ち上げられたりしていました(写真4)。また、河川氾濫によって町中が泥で覆われており、辺り一面が茶色に染まっていました(写真5)。そうしたなか、住民の方々が泥にまみれながらも黙々と清掃作業をされているのが印象的でした。

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写真3:押し流されて道路をふさいでいる家屋(正面の青色の建物)

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写真4:流されてブロック塀に押し上げられた乗用車やバス

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写真5:泥に覆われた街路

 今回の水害では、国宝であり約400年の歴史をもつ青井阿蘇神社も浸水被害を受けています。青井阿蘇神社は周辺より少し高い場所にあるのですが、神社に向かう階段は泥に埋まっていました(写真6)。社殿も浸水してしまったようで、多くの方が社殿の中の物品を運びだしていました(写真7)。貴重な文化財が無事保護・復旧されることを願わずにはいられませんでした。

藤見先生6.jpg写真6:泥に覆われた青井阿蘇神社の階段

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写真7:青井阿蘇神社の社殿の物品が運び出されている様子

 今回、球磨川水害による人吉市内の被災状況を視察して、治水の難しさを改めて思い知らされました。この水害時の熊本県球磨郡湯前町の24時間降水量は489.5 mmにも達しています。このような極端な豪雨に対して、ダムや堤防などのハード整備で水害を防ぐことは現実的に不可能であるように思います。土地利用規制などのソフト対策とも有機的に連携させることで、水害の被害を軽減させることに重きを置く必要がありそうです。ただし、球磨川の美しい景観はホテルや旅館の貴重な観光資源にもなっています。土地利用規制するにしても、一律に規制するのではなく、地域や業種の実情に合わせた柔軟な制度設計ができることが望ましいのではないかと考えています。

※熊本大学減災部門での現地視察の結果は下記にアップロードしております。興味がありましたらぜひご覧ください。

第1報 https://cwmd.kumamoto-u.ac.jp/disaster/news/20200708/

第2報 https://cwmd.kumamoto-u.ac.jp/disaster/news/20200716/

第3報 https://cwmd.kumamoto-u.ac.jp/disaster/news/20200722/

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